予想通り


 ぽたり、ぽたりと雨が降って来た。灰色の空から雫が、一つ、二つと落ちてくる。雨は好きだけど、今日は素直に喜べなかった。あまりにも、予想通り過ぎたから。
 今日の空は、朝からずっと灰色で、今にも雨が降りそうな様子だった。天気予報でも、九割以上の確率で雨が降ると言ってた。本当に、誰にでも予想できるぐらい、わかりやすい天気。今日の私は、それが嫌だった。正確には、今の私は。
 三時間ぐらい前の私は、全てが予想通りだったとしても、もうそれでいいかなと思っていた。世界なんて、所詮はそんなものっていう、諦めがあった。でも、いざ現実と向き合ってみると、この予想と少しも狂わない事実が、どうしようもなく嫌になって、だから大好きな雨すら嬉しく思えない。
 家の掛け時計が午後七時を伝えた。もうそんな時間なのかと思い、溜息をつく。眼前に広がるベランダとその向こうの景色は、相変わらず雨に濡れている。じっとりとした雲に覆われた空は、夏が近いからかまだ明るさが残っているが、もうじき真っ黒になるだろう。
 外が暗くなれば、明るい部屋の中の私の表情は窓ガラスに映る。その時私は、どんな顔をしているだろうか。少なくとも、笑顔じゃないことぐらいは私だってわかっている。だけど、悲しい顔か、苦しい顔か、無表情な顔か、はたまた怒った顔か。そんなところまではわからない。自分の表情も、感情も、よくわからなかった。
 ただひたすら、三時間前に手にした事実から、逃れたいと思った。ふと思い立って、財布の中を見る。お小遣いというのは生まれてこの方もらったことが無く、お年玉もほとんどが貯金行きのため空に近いが、それでも今日の夕食と明日の朝食ぐらいは買えるだろう。
 本当に、逃げだしてしまおうか。財布を持ったまま逡巡していると、下の階から母が私を呼ぶ声が聞こえた。やはり、諦めるほかないのかもしれない。
 二階から一階へと続く、短い階段。それを降りる、一歩一歩が苦痛だった。近づいてくるのである。私にとっての絶望が。
 居間に辿り着いて、それを見た瞬間、三時間前に聞いた事実が再度よみがえった。奇跡なんて、やはり起きなかったのだ。

 食卓の上には、今日できっかり一ヶ月連続のカレーがあった。


最初は真面目に書いていたのですが、どこかで何かがずれました。
敬体ではなく常体で小説を書くのは、多分これで二回目。
一人称は初めてかもしれない。


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